第62回東京国際ギターコンクールの感想②
(2019/12/30 文章を少し修正、各人のところに合計点追加)
前回の記事からの続きです。
今回は12月7日に行われた第62回東京国際ギターコンクールの2次予選の感想を書いていきます。
当日は朝から小雨が降っておりとても寒かったです(写真はハクジュホール9階のスカイテラスから撮りました)
予選ということでさすがに前日よりは観客の数は増えておりました。
ですが満席というわけでもないので比較的席は自由に座ることができました。
なので自分は後方の真ん中あたりで最初から最後までずっと観戦しました。
まずは今回の予選の課題曲について。
今年の課題曲はA.ピアソラ作曲の5つの作品よりⅠカンペロ、Ⅲアセントゥアードの2曲でした。
この作品はピアソラが書いた唯一のギターオリジナル作品らしいのですが、コンクールなどではあまり進んで演奏する人はいないような印象です。
やはり有名な編曲作品と比べると地味な印象があるのでしょうか。
それでも各曲ところどころピアソラ節みたいなのは伝わってくるかと思います。
Ⅰのカンペロは演奏の仕方が人によって大きく2通りに別れていたような印象でした。
全体的にゆったりと静かな感じで弾く人と、逆にアクセントを強調するような感じで最初から派手目に弾く人です。
どちらが作者の意図した演奏なのか自分には分かりませんが、「Campero」という題名は”田舎の”という意味らしいのでそうだとすると前者の方が合っているのかなと思います。
この曲で個人的にいいなと思ったのは演奏順2番目のDmytro Omelchakさんと16番目のPietro Locattoさんの演奏です。
二人共他の方より曲が手のうちに入っていた感じで、凄く聴き入ることができました。
Ⅲのアセントゥアードはパーカッシブなアタック(ゴルペ)をしながら演奏するのが印象的な曲です。
題名も”アクセント”という意味らしいのでそのまま派手で豪快な演奏をする人が多かったと思います。
ただ今回みなさんが一番苦戦していたのはこの曲ではないでしょうか。
おそらく自分が聴いていた限りこの曲をノーミスで自信を持った形で仕上げられた人はいなかったかなと思います。
特に全体的にミスが多かったのが16小節や30小節あたりに出てくるスライド演奏の部分です。
この辺は譜面を見ると確かに押さえづらいところです。あと後者はオクターブ上に一瞬で押さえなければいけないので難しいですね。
こういうところが非ギタリスト作曲家による曲の難しさなのだと思います。
まともなギタリストがこういうフレーズを作曲するとしたら押さえやすいように音を省略したり、もっと弾きやすいものに変更すると思います。
それではここからは演奏順に一人ずつ会場でメモしたものを元に簡潔に感想を述べていきます(今回から人数が多いときは単純な気付いた点などはなるべく箇条書きでいこうと思います)
1.井本響太(118点)
トップバッターは日本の井本さんでした。
国内の有名なコンクールで優勝入賞多数している若手の方です。
ギターをかなり立てて構えていたのが印象的でした。
【Ⅰカンペラ(以下Ⅰ)】
一人目ということで緊張しているのかなと思ったが、そんな様子はあまり感じられなく落ち着いたしったかりとした立ち上がり。
全体的に多少のミスはあったが強弱の使い方はうまい。
低音のびびりがちょっと気になった。
【Ⅲアセントゥアード(以下Ⅲ)】
最初よりもこの曲に入る時のほうが緊張したのかなという印象、押さえのミスがあったり盛り上がるところで力み過ぎかなと思うところあり。
【ソナタ第1楽章/J.トゥリーナ】
ゆっくりとした立ち上がりだったがそのあとの速いフレーズで少しもたつく?
展開部が勢いまかせに感じられた所あり、低音の処理が甘いところも。
【ソナタ第3楽章】
ラスゲアードがあまり歯切れよくなくつぶれて聴こえる。
後半の速いフレーズが少し雑に感じた。
2.Dmytro Omelchak(117点)
ウクライナ出身の方で男性です。
足台と支持具を併用しておりました。
【Ⅰ】
上にも書いたとおりこの方のカンペロは全体的に安定していて雰囲気が出ていてとてもよかったです。
【Ⅲ】
最初はゆったりとした立ち上がり。
カンペラと比べるとミスが増えてしまって出来に差があり。
【セビリャーナ/J.トゥリーナ】
力強い迫力のある立ち上がり。全体的に安定していたけれど、スペインの曲らしさは感じられない。最後も非常に盛り上がりよく終わる。
3.井上郁夫(101.5点)
1984年生まれらしいので今回の最年長でしょうか。
アメリカの大学に留学経験があるそうです。
【Ⅰ】
少しテンポが早い入り。全体的に悪くないと思ったが、上位の方のように曲を聴かせてくれるようなところは少なかった印象。
【Ⅲ】
アタックするところが指板よりというか指板の上辺り?
スライド部分でミスが多い。
アタックと弾くところの溜めがないためかリズムがずれて聴こえる。
【カプリスNo.24/N.パガニーニ】
主題のところから決まらず、全体的にかなりミスが多い演奏。
この曲はどちらかというと技巧を誇示するような曲だと思うが、それが出来ないまま終わってしまった。
4.Chenyu Si(126点)
中国出身の2003年生まれということでかなり若い子でした。
【Ⅰ】
所々出てくるハーモニックスが詰まっている感じ。
大きく崩れるようなところはなかったが、全体的に表現が一辺倒。
【Ⅲ】
こちらも悪くないが平凡に感じる若い演奏。
【大聖堂Ⅰ~Ⅲ/A.バリオス】
第1楽章は無難にこなした感じ。
第2楽章は低音がこもり気味なのが気になる。
第3楽章は快速な演奏だが中間部でミスあり。
個人的にこのクラスのコンクールで大聖堂などを弾くのはよほど完成度が高くないとアピール出来ないと思われた。
5.Feng Zhong Yao(118点)
こちらも中国出身の方です。
この方と前述のChenyu Siさんはパンフによると四川音楽学校高等科というところで同じXu Baoという先生に学んでいたそうで、それが理由なのかは分かりませんが非常に演奏スタイルと出てくる音がそっくりでした。
同じ先生に習っていたからといってここまで似るのは不思議な感じですね。
【Ⅰ】
大きな力強い音で弾き出していた。
その割にはどうも印象に残らず無難な演奏に聴こえた。
【Ⅲ】
最初のフレーズをスタッカート気味に弾いていた。
スライドの部分は勢い任せ。
この曲を弾き終わったところでいきなり立ち上がったので少し驚く。
【ファンダンゴOp.16/D.アグアド】
全体的に安定した演奏で悪くなかった。
技巧の高さは示せていたと思う。
ただ最初から最後まで同じような弾き方で、変奏曲としては変化が感じられなかったところもあり。
6.Yao Xing Xing(109点)
こちらも中国出身で3人連続でした。
2005年生まれなので今回の最年少でしょうか。
とても小柄な女の子です。
彼女については今年のイーストエンド国際に出場していましたので前に色々書かせて頂きました。すごい技巧の持ち主で将来有望視されているみたいです。
【Ⅰ】
ゆったりとした入りで、全体的にミスなく安定。
ただし印象に残るような演奏には感じられず。
【Ⅲ】
彼女の技巧でもスライドのところは苦しそうでちょっと不安定。
【ロンド・ブリランテⅡ/D.アグアド】
イーストエンド国際でも披露していたアグアドの序奏とロンドOp2-2からロンド部分を演奏。
その時と比べると今回はどうも緊張していたのか場馴れしていないためなのか、全体的にミスが多く出来はあまり良くなかった。演奏の姿勢も慎重になりすぎてしまった感じで、以前聴いたときのような迫力はなかった。
ただ以前指摘した爪のこすれるような音は聴こえなくなっていたので、右手の使い方は改善したのではないかと思った。
ここまでで最初の6人の演奏が終了。
一旦休憩の後演奏が再開されました。
7.Gian Marco Ciampa(134点)
イタリア出身の方で去年一昨年と2年連続で2位でした。
今年の出場で3年連続参加でしょうか。
彼は課題曲からではなく自由曲から弾き始めました。
【パッサカリア/A.タンスマン】
理由は分からないが、弾き始める前から明らかに顔色が悪く緊張していたように思う。
最初の低音の主題を弾くところから自信のない音が聴こえてくる。
主題はアクセントというかやたらと妙な溜めをつくって弾くので印象がよくない。
全体的に明らかなミスが相当多い。
前半トレモロのところやその後の難所の32分音符のフレーズは全く弾けていなかった。
ギターの音自体は大きいのだがかなり籠もって聴こえる。
この曲に関しては弾き終えるのが精一杯という感じだった。
【Ⅰ】
一旦気を取り直したのか少し落ち着いたように見えた。
演奏もまあまあ安定してきたと思う。
雰囲気もそこそこ出ていた印象。
【Ⅲ】
この方もアタックは指板寄りを叩いていたように見えた。
かなり強いアタック音を出していたと思う。
とにかく勢いまかせの豪快な演奏。
ただそれだけに細かいところに気を配る余裕はなかったようで、押さえのミスが散見された。
正直曲の演奏順が悪いと思う。
パッサカリアは一発勝負の場だとこのクラスの技巧の持ち主でも非常に厳しい難曲と改めて感じた。
課題曲から弾き始めたほうが全体の演奏の出来は変わったのではと思う。
本人からも演奏が終わった直後の引きつった笑顔で失敗してしまった感がありありと伝わってきて、出ていくときの背中がちょっと寂しそうだったのがすごく印象に残っている。
8.Damiano Pisanello(135点)
スイス出身の男性の方です。
去年も出場していて本選にも残ったようです。
【Ⅰ】
お手本のような端正な演奏。
ただ中間部で低音の処理が甘く感じる所あり。
【Ⅲ】
やはりスライド部分で苦戦していた印象。
【練習曲第10番/H.ヴィラ=ロボス】
なぜか印象に残らず。
聴いていたときは「うーん、ヴィラ=ロボスの10番ってこんな曲だったかな?」と不思議な気持ちに陥る。
【パーカッション・スタディ第2番/A.カンペラ】
とにかくひたすら前衛的?衝動的?な展開が続くもはや自分には曲なのかなんなのかよくわからない代物。
スプーン?スライドバー?を取り出して使い始めたときは失笑しそうになってしまった。
ひたすらパフォーマンスありき。
正直演奏者本人のコンサートで余興の一環でやるならば構わないが、コンクールの場でこういう曲を披露するのは問題だと思う。
コンクールとは演奏を評価する場であろうし、評価をするということは基準が必要だ。
そしてその基準は大凡の人に理解できる範囲に留めなければいけない。
このコンクールはクラシックギターのコンクールであり、クラシックギターには少なからず歴史なり伝統というものが存在しているわけでその範囲に留めなければいけないと思う。
そうでなければ何をしてもいいことになってしまう。
自由曲はそのある程度良識常識の範囲内で決められたクラシックギター曲の枠組みの中から選ぶのが自由なのであって、ただ奇をてらったように枠の外側から選ぶのが自由というわけではないはずだ。
”クラシック”だからといってこの場にピアノやヴァイオリンを持ち込んで弾くだろうか?
”ギター”だからといってこの場でエレキやフラメンコ、ジャズギターを披露するだろうか?
それらは素晴らしい演奏かもしれないが、それらをやったらこのコンクールでは失格のはずだ。
こういう曲を弾くのはただ単にクラシックギターを使っているだけであって、中身は「全く別のジャンル」の演奏をしていることに思えてならない。
弾き終わった後観客はそれなりに拍手を送っていたが、自分は本当にそれでいいのかと思う。
もし今後こういった演奏や演奏者が持て囃されるのならばこのコンクールは将来「東京国際ソロギターコンクール」や「東京国際パーカッシブギターコンクール」あたりに改名を検討しなければいけないと思う。
それならば自分も文句はないし、足を運ぶこともないだろう。
9.坂本和奏(113点)
坂本さんも今年のイーストエンド国際で演奏聴きました。
今回予選本選用に選曲した曲もその時披露した曲が中心となったみたいです。
坂本さんはまず椅子の高さが合わないというトラブルに見舞われました。
どうも去年から演奏に使う椅子がよく見かけるヤマハのピアノ椅子(No.5)から、横長のレバーで調整するタイプに変わったみたいです。
ヤマハの椅子はよく使われるのでコンクールに出る人は大体調整の仕方は知っていると思いますが、こういう初めて使う椅子はやはり事前に確認しておきたいですね。
幸い観客の前の方にいた人が教えてくれたので無事に調整することが出来ていました。
【Ⅰ】
少し弱いかなという音だったが、慎重に弾き始める。
ミスは少なく端正な演奏だった。
【Ⅲ】
テンポ速い入り。
ただスライドの所でミスしてから演奏が弱くなってしまった印象あり。
後半リズムが不安定なところがあったように感じた。
【夕べのハーモニー/J.K.メルツ】
全体的に安定していたが、ところどころ不鮮明に聴こえるフレーズあり。
中盤以降に出てくるトレモロ音型のフレーズで爪がカチカチ鳴るのは少し気になった。
最後の方に出てくる印象的なメロディーのあたりから終わりまでは気迫が感じられてよかったと思う。
ただ以前も似たようなことを書いたと思うが、メルツのこういう曲は曲自体がどちらかというとかなり地味な印象があるのでこういうコンクールだとアピールしづらいのではと感じた。自分が思っていたよりも坂本さんの点数が伸びなかったのはその辺りが原因かもしれない。
10.Ho Nam Ji(118点)
韓国出身の女性の方です。
この方も自由曲から弾き始めました。
【カプリコーンの夢/R.ディアンス】
この方の演奏で一番印象に残ったのは、いい意味で女性とは思えないほどの力強い芯のある音でした。そして全体的に細部まで配慮が感じられすごく聴きごたえがありました。
ハーモニックスを絡めたフレーズなどもきれいでとてもよかったです。
【Ⅰ】
この曲もさきほど同様パワフルな音で始まる。
ただ全体的に細かいミスがあり。
【Ⅲ】
入りのリズムの取り方が不安定に感じられた。
自由曲がすごく良かっただけに課題曲2曲が出来に差があってちょっと残念な気がした。
11.Daniel Valentin Marx(101.5点)
ドイツ出身の方です。
【涙の賛美D711、セレナーデD957/F.P.シューベルト(メルツ編)】
メルツ編とあるので多分ギターのための6つのシューベルト歌曲の独奏版から選んだ2曲だと思います(ちなみに同じくメルツには歌とギター伴奏による編曲もありますね)
両曲ともいい曲だと思いますが、このレベルのコンクールの自由曲として競うにはちょっと弱いような気がします。技巧的に目立つところもなさそうですし(譜面を流し見しただけの印象ですが……)、そうなると音楽的表現でアピール出来るのかというところですが個人的にほとんど印象に残らなかったので選曲が失敗だったと思いました。
【Ⅰ】
派手なところのないまとまった演奏。
音は一音一音しっかり出していた感じ。
【Ⅲ】
アタックをなぜか二重に打つ(タンではなくてタタンのような感じ)
他の方とはちょっと違ったような弾き方だったが、それがいいのかはよく分からない。
点数を見た限り審査員に評価はされなかったようだ。
どうもハイポジションの辺りを押さえるフレーズで苦戦していた印象あり。
12.Carlo Curatolo(132.5点)
この方もイタリア出身の方です。
【Ⅰ】
芯のある音で安定感もありしっかりとした演奏。
細かいミスはあったがそれほど気にならない程度。
【Ⅲ】
入りの所で若干ミスあり。
低音の処理がちょっと粗い。
後半も少しミスあり。
【ソナタ第4番イタリアーナより第2、3楽章/G.サントルソラ】
この曲を初めて聴いたのは多分2年前の第60回の本選でアントン・バラノフの演奏で聴いたのが初めてだったと思います。
3楽章形式のソナタみたいです。
今回は演奏しませんでしたが、第1楽章は不協和音のパッセージが続く現代音楽的な曲ですが不思議なことにそれほど聞きづらくなく結構いい曲だと思います。
第2楽章Reverie〈幻想曲〉は逆に全く現代音楽的でなく静かでゆったりとした曲ですごくいい曲です。途中で自分好みなバロック風なフレーズが出てきたり飽きません。
カルロさんの演奏も曲の雰囲気が出ていてとてもよかったです。
そして第3楽章は再び現代音楽的な急速なフレーズが目まぐるしく展開される曲になります。
この曲は上のパーカッション・スタディ程ではありませんが結構ボディを叩いたりなどのパーカッシブ的な奏法が出てきます。なのでこの曲は聴いた人の好みが分かれそうです。
この曲のパーカッシブ奏法はあくまでも限定的なので自分はまだ許容範囲です。
ただ問題はここからなのですが、ネットで何人かの演奏を聴いた限りだとそのパーカッシブ奏法がかなり違います。
楽譜がないのでどういう風に指示してあるのか分かりませんが、パーカッシブ奏法をボディを叩いたりするのにとどめておく人と、足を使って床からドスンドスンと音を出す人の2通りの演奏がありました。
例えばアントン・バラノフの録音だと足の音は入ってなさそうです(うろ覚えですが2年前本選で見たときも足は使っていなかった? ような気がします)
逆に今回のカルロさんなどは足を使って床を叩いておりました。
曲自体は第1楽章同様聞きづらくなくなかなかの曲だと思うのですが、足でドスンドスンとするのはクラシックの演奏的にはちょっと見苦しいような……。
とにもかくにもこの曲は機会があったら楽譜手に入れて弾いてみたいですね。
ざっと調べてみた感じ国内で入手できるところはなさそうなんで海外から取り寄せになるのかなぁ。
ここまでで第2部が終了。
再び休憩時間を挟み、残る4人の演奏が再開されました。
13.Ji Hyung Park(144点)
韓国出身の方です。
今回で3回目の参加でしょうか。
毎回本選に残っていますね。
【無伴奏ヴァイオリンのためのファンタジアNo.1/G.Ph.テレマン】
カルロ・マルキオーネの編曲版で弾いているみたいです。
テレマンという作曲家はバロック音楽に触れていれば名前を聞くし有名(バッハとの関わり合いとか作曲した数が半端ないとか)だとは思いますが、正直クラシックギターでどれくらい弾かれるのか自分はよく知りません。
今回の曲はネットで調べるとそこそこ弾いている人がいるので有名なのかな?
変ロ長調のこの曲は大きく分けて3つの部分(Largo-Allegro-Grave)から構成されていて最後にAllegroに戻って終わるみたいです。
バロック音楽らしい優雅な曲だと思います。
自分はヴァイオリン版とギター版それぞれ何人かの演奏聴いてみましたが、これはやはりもともとのヴァイオリン版の方が好みです。もちろんギター版が悪いわけではないのですが、みなさんカポをつけて原調に合わせているのでそのあたりが少々魅力に欠けている部分なのかもしれません。ギターに合っていて弾きやすいだろうイ長調あたりで編曲するのは駄目なんでしょうかね。この辺はバッハの無伴奏曲がそのままギターで弾いても魅力的なのと違っていて個人的に興味深いです。
さて予選のパクさんの演奏ですが、
優しい表現力のある音で入る。強弱の付け方が上手い。装飾音もきれい。
アレグロに入ってからの対比も見事で、深い厚みのある音でした。
なので予選の自由曲のなかでは文句なしに上位だったかなと思います。
【Ⅰ】
かなりメロディーを浮かび上がらせたようなそんな感じで弾き始める。
細かいミスはあるが、とにかく全体的に力強さというか気迫を感じる演奏。
それでいてさりげない音色の変化もうまいと思う。
ただ個人的な意見として「Campero」の題名にはちょっと合っていないかなという演奏でもあった。
【Ⅲ】
テンポはかなり速めの印象。
スライド部分はやはり難しいのか、ミスというか迷いが感じられたのが惜しい。
Ⅰに続いてこちらも全体的に迫力のある演奏に感じられた。
14.山口莉奈(113.5点)
山口さんも国内の色々なコンクールで多数の優勝入賞している若手の方です。
この前のスペインギター音楽コンクールで初めて演奏聴きました。
その時は個人的にあまり感心できない出来だったのですが、やはり本領を発揮出来ていなかったんだと思います。
この日の演奏は全体的にそこまで酷くなく比較的安定していたように感じました。
【Ⅰ】
入りは慎重な感じ。
全体的に他の方と比べるとやわらかい感じの演奏。
自分は悪くないと感じたが、ひょっとしたら審査員によっては弱々しい演奏に映ってしまった可能性もあるかもしれない。
【Ⅲ】
アタックが若干弱い印象。他がやたら強く叩きすぎな人もいたので単純に比較出来ないが、もうちょっとアクセントになるような感じが欲しい。
初めの方に出てくる低音のスラーが不鮮明に聴こえた。
それ以外は全体的に派手なところはないけれども手堅くまとまっていたように思った。
【南のソナチネ第1、3楽章/M.M.ポンセ】
どちらとも手に入っているような演奏で手堅くまとまっていたように感じた。
ただ細かいミスというか所々音をはずしているように聴こえたのは惜しい。
それでも今回の日本人参加者の自由曲のなかでは個人的に一番印象に残った気がする。
15.Carlotta Dalia(142点)
イタリア出身の女性の方です。
この方も去年出場していて本選で3位になっているそうです。
表板の真ん中がスプルース(白っぽい)でその両端がシダー(茶色)というあまり見かけないギターを使用しておりました。
自由曲を2曲弾きましたが続けてではなく間に課題曲を挿んでいました。
【ソナタK14/D.スカルラッティ】
入りの所で少しミスがあったがそれ以外はまずまずの演奏。
鍵盤楽器ほどではないが、よく聴かれるクラシックギターの演奏よりはテンポがかなり速めと感じた。
【Ⅰ】
どちらかというと力強さを全面に出したような感じの演奏。
中間部でミスではないがちょっと不鮮明に聴こえたところあり。
【Ⅲ】
入りのところは端正で落ち着いた感じ。
けれども途中から明らかにテンポアップしたような感じに聴こえた。
スライドのところがミスを誤魔化すためではないのだろうけどちょっと勢い任せの印象。
ただ全体的にアタックの叩き方はこの人のが一番自然なやり方に見えたし聴こえた。
【ゴヤによる24の狂詩曲よりNo.18/M.C=テデスコ】
ゴヤのカプリッチョスの中でもよく弾かれる曲でしょうか。
最初のところは曲の持っている切なさそうな雰囲気が感じられてよかったと思います。
ただ変奏に入ってからはちょっとテンポが早く感じました。
制限時間に間に合わせるためかもしれませんが、聞く側としてはもうちょっと落ち着いて弾いてもらいたかったかなと。
最後のところはさすがにゆっくりになったのでそこは問題なかったです。
16.Pietro Locatto(127.5点)
予選最後の演奏者です。
この人もイタリア出身の方です。
イタリアの人は今回本当に多いですね。
棄権した2名がどちらともイタリアの人なので合わせると本来6人が2次予選に参加する予定だったみたいですね。
【Ⅰ】
先に述べておきましたがこの人のCamperaもとてもよかったです。
落ち着いたしっかりとした入り。雰囲気もあり、体の動きにもアピールできるというか伝わってくるものがありました。
最後まで安定感がありこの曲はとても印象に残りました。
【Ⅲ】
しかしながらこちらのアセントゥアードは対照的にあまりよくなかったかなと思います。
Ⅰのいい流れのままこの曲も演奏しようと思ったのだと思いますが、そこは趣向が違う曲なのでちゃんと切り替えたほうがよかったのではないかと。
途中から段々ミスも増えてきましたし、最後の方は勢い任せの感がありました。
【祈りと踊り/J.ロドリーゴ】
前半はⅢの演奏を引きずったのか少し雑な所あり。
それでも途中から持ち直してきた感じでトレモロのところやラスゲアードを絡めた速いパッセージのところなどはまあまあよかったと思います。
今回も長くなりましたが各人の演奏の感想は大体こんな感じです。
さて予選の結果ですが、得点順に以下のような感じになりました。
1.Ji Hyung Park(144点)
2.Calotta Dalia(142点)
3.Damiano Pisanello(135点)
4.Gian Marco Ciampa(134点)
5.Carlo Curatolo(132.5点)
6.Pietro Locatto(127.5点)
とりあえず以下色々気になった点など順番に述べていきます。
まず個人的に多分予選通るだろうなと思われたのは、
Ji Hyung Parkさん、Calotta Daliaさん、Carlo Curatoloさんの3名。
彼らについては特に問題なく順当かなと。
パクさんが最高得点で1位だったのも予想通りでした。
3位のDamiano Pisanelloさんは演奏した曲に関しては上に書いた通り個人的に納得いかないところがありますが、実力的には問題ないだろうと思われたので本選に残ったのは不満はありません。
6位のPietro Locattoさんは課題曲のⅢが良くなかったのでどうかなと思いましたがぎりぎり残りました。これもまあそんなに気になりません。
やはり問題だと思うのは4位のGian Marco Ciampaさん。
なぜ彼が総合的に134点も獲得して本選に残ったのかよく分かりません。
上に書いたとおり自由曲に関しては落選した他の方と比べても明らかにひどい出来でした。
課題曲もその出来を補えるだけの演奏だったとは思えません。
自分は確実に落選したと思っていました。
おそらく本人もそう思っていたんでしょう、発表で最初に呼ばれたとき通ったのが信じられないような表情で舞台に上がっていきましたので。
残念ながら今回は落選してしまいましたが、個人的に本選で演奏を聴きたかったなと感じたのは10番目のHo Nam Jiさんと14番目の山口莉奈さんでした。
Hoさんは自分好みの音と演奏だったので、本選で弾く予定だったブリテンのノクターナルを聴いてみたかったです。
山口さんは今回出場した日本人の中では一番印象に残ったので本選に残って欲しいなぁと思ったのですがやはりちょっと駄目でした。
さて結果的に昨年に続き今年も日本人の方で残れた人はおりませんでした。
それに比べてイタリアの方々は全員通過と……。
これはやはり国内のコンクールなのでちょっと寂しいし残念ですね^^;
何が駄目なのかはっきりとした原因や問題点は分かりませんが、個人的に全員分観戦していて気になったのは経験の差とインパクトの差でしょうか。
単純な演奏技術ではそこまで差があるとは思えませんでした。
本選に残った方で技術的に抜けているなと感じたのはパクさんぐらいです。
かといってパクさんも全部手放しで褒められるほど完璧というわけではありません。
経験の差はこういう本当に手抜きのない緊張感漂う場(コンクール)をどれだけ踏んできたかだと思いました。
海外の東京国際クラス並みかそれ以上のレベルのコンクールを経験してきた人たちと国内の顔見知った人たちばかりで構成されたコンクールに出ているだけの人たちとはやはり技術技巧云々ではない差があるのではと感じます。
そういうところがステージに上ったときの心の余裕につながっているのだと思います。
心に余裕があれば演奏も思い切っていけるはずです。
結局安定性重視のおとなしい演奏よりミスは多少あっても観客側に向かって訴えかけられる人のほうが審査員の印象もよくなるし点数も伸びるのでしょう。
それが個人的にインパクトの差だと思っているところです。
自分もアマチュアの身分ですがコンクール挑戦続けておりますのでステージに上ったら心の余裕と観客にアピールできる演奏がしてみたいものです^^;
今回は残念な結果だったかもしれませんが、来年以降も日本人で挑戦する人は絶えないかと思いますのでぜひとも頑張って欲しいものです。
というか来年予選出られるなら出てみたいものです、自分が(笑)
年齢的にまだ平気なので(いわゆるラストチャンスです……Σ(´∀`;))
記念受験ならぬ記念応募ですね。
まあ自分の経歴だとふさわしくないと判断されて録音聴かれず書類だけで落とされるかもしれませんが、一考してみたいと思います。
それでは次回は本選の感想を書いていきたいと思います。
出来ることなら今年中に更新できるといいなと思っているのですが、うーん難しいかもしれません。
コンクール終わってから3週間ほど経っておりますが、まあ毎度のことなので気長にお待ち頂けると幸いです。
0コメント