第37回スペインギター音楽コンクールの感想

《まえがき》

先日10月13日(日)に行われた第37回スペインギター音楽コンクールに初参加してきました。

国内のギターコンクールの中でも知名度があり、かつ実力者が多数出場するコンクールという印象があります。以前から出場してみたいなと思っていたのですが今回ようやく参加することが出来ました。

けれども御存知の通りこのコンクールが開催される週末に合わせて勢力の大変強い台風19号が上陸して、各地に大変な被害がでました。

コンクール自体の開催も危ぶまれましたが、出場者には協会の方から事前にメールで開始時間を遅らせる旨の連絡が届きました。

そのため本来出場受付が10時25分までで二次予選開始が10時50分だったのが、受付は13時10分までで予選開始は13時30分からとなりました(実際には予選開始は13時50分ぐらいからになりましたが)

自分の場合土曜日まで仕事で事前に上京するということが出来ず、ニュースや天気予報、交通状況などを随時チェックしていましたが、これはもしかしたら電車が動かないで会場入りできないかもという心持ちでおりました。

台風は当初日曜日ぐらいに来るのかなと思っておりましたが、少し進行が早く土曜日に本格的に上陸しました。各地の交通機関は午前中ぐらいまででほぼ運休してしまったので、日曜日に上陸していたら多分駄目だったのかなと思います。

自分の職場も13時で営業停止して、早めに帰宅することが出来ました。

台風は土曜の夜から日曜の深夜にかけて関東から東北、そのまま太平洋の方に抜けていきましたので朝方には鉄道の運行状態が分かるかなと判断して準備して就寝。

9時ぐらいに起きて状況を確認しましたが、その時点では運行は再開されておらずこれは駄目かな……という気持ちでしたが10時ぐらいにようやく運行再開の情報を得たのでそのまま駅に向かいました。

それからは特にトラブルもなく13時ごろには会場入りすることができました。


《2次予選》

それではまずは予選に関することから書いていこうと思います。

テープ審査の1次予選の課題曲はお馴染みタレガのアデリータ。

今回は50人ほどの合格だったらしくなかなかの大人数ですね(ただ残念なことに台風のせいか欠席の方が多く2次予選は37名で行われました)

そして当日行われた2次予選の課題曲はアルベニスのタンゴOp.165-2でした。

この曲は今回初めて弾く曲だったので協会指定のスペインギター音楽名曲コレクションの第3集を購入してから結構早めに取り組んでいたのですが、原曲がピアノの曲だからなのか曲を聞いたり譜面の見た目の印象よりもはるかに難しくて弾きづらい曲でした。

そしてなんといっても暗譜がとてもしづらい……。

実際予選に臨んだ人の多くが満足に押さえられなかったり、止まってしまったりしていました。

そのため自分も本番で通して弾けるのかあまり自信がなかったのですが、意外と思っていたほど緊張することもなくミスも比較的抑えられた演奏だったかなという印象でした(あくまでも自己評価ですが^^;)

今回当初の予定ではうちの父も見に来る予定だったのですが、時間変更で帰るのが遅くなるからということで来なくなりました。なのでこの前の埼玉のときのように客席から聴いてみた感想は分かりません。

別に今回に限ったことではないのですが、毎回予選で演奏する様子を後日動画で見られたらすごくいいのになーと思います。家では練習の合間に自分で動画撮影してよくチェックしていますがすごく参考になります。まあ大体のコンクールでは開始のときに撮影禁止のアナウンスがありますのでそれを破ってまでやろうとは思いませんが、主催者側で結構撮影のスタッフを入れて録画しているようなので希望者には参加者本人の動画提供とかあったりすると嬉しいと思うのですがどうなんでしょう? おそらく有料でも欲しいという人は結構いると思います。

でも色々問題があるのでやらないんだろうなーとは思いますが、もしそういう試みをしてくれるコンクールがあればぜひ出てみたいですよね。

今回も予選を突破することは出来ませんでしたが、これだけ腕のある人が集うと確実に突破するにはノーミスの演奏は当たり前で何かアピールできるようなものがないと厳しいんだろうなとは思います。

でも今回本選に残った人たちの演奏と自分の演奏に絶望的な差があるのかというと全然そんな気はしなくて、むしろ今後も続けていけば案外チャンスはあるんじゃないのかというようなものを感じました。もちろん甚だしい勘違いかもしれませんが、まだまだこの先も挑戦したいなと思っております。


それではここからは2次予選の他の方の演奏について感想を書いていきます。

このコンクールでは当日の受付の際にくじを引いてそこで演奏順が確定します。

自分は今回21番目の演奏でした(全体の順番は写真の画像を参考にして下さい)

順番が来るまでは控室で待機していますので基本的にその前の方の演奏は聴けません。

演奏が近くなると5人ずつぐらいで移動してホール横の楽屋に移動。

それから舞台袖に移るときは3人ずつ待機しました。

なので実際の演奏を聴けたのが自分の2つ前の原田くんの演奏からでした。

そして直前の山口直哉さん。

余談ですがなんと山口さんの使っているギターが自分と同じアストリアスのダブルトップモデルでした(笑) すごい偶然ですね。控室で練習しているときふと横を見てみるとどうも似ているなーと。思わず話しかけてしまいました。

そして自分の演奏が終わり控室の荷物を持ってホールに戻ってきたのが26番目の三谷さんの演奏からでした。

それからは最後の方まで聴けましたが、予選は今回合計17名の方の演奏しか聴けておりません。

その中で個人的に予選を通るだろうと思われたのは28番目の大谷恵理架さん。

37番目の田中春彦さん。そして最後に演奏した渡邊洋邦さんでした。

結果的に本選に残った6人はというと本選の演奏順に、

①Likhacheva Annaさん。

②大谷恵理架さん。

③山口莉奈さん。

④田中春彦さん。

⑤横村福音さん。

⑥Flavio Natiさん。

以上の6名でした。


まず大谷さんの演奏について。

大谷恵理架さんは以前からこのブログでも何度か名前を挙げております。

まだ高校生ですが周囲の評判も非常に高く、かなり期待されている若手の方です。

すでに色々な大きなコンクールでも優勝、入賞をしています。

今回の予選でも落ち着いた丁寧な演奏でした。

ミスらしいミスもなく予選突破は間違いないなと思いました。


次に田中春彦さん。

田中さんも色々なコンクールで本選に残っていて入賞されている方です。

これまでも何度か自分が参加したコンクールで一緒になっておりまして、毎回演奏を聴かせてもらっています。

今回の予選の演奏は非常に落ち着いていてしっかりとした演奏でした。

特に音がとても力強くて聴き応えがありました。

なので田中さんも予選突破確実だと思いました。


3人目は渡邊洋邦さん。

渡邊さんはこの前の埼玉ギターコンクールで一緒になりました。

そこでは3位入賞されまして、ブログの記事でも感想書かせて頂きました。

渡邊さんはギターの講師されていて、プロの方みたいです。

今回も非常に響きのいい音を出しており、演奏もミスなく最後まで安定しておりました。

渡邊さんも上の二人に負けない演奏だったので本選に残るだろうと思われたのですが、残念なことに落選してしまいました。

これは今回個人的に非常に疑問の残る結果でした(後述します)


本選に残った方のなかで12番目のロシアのAnnaさんと24番目の横村さんの演奏は聴けなかったので出来は分かりませんが、38番目の山口さんと39番目のNatiさんは聴くことが出来ました。


なので4人目は山口莉奈さん。

山口さんも若手の方ですが、かなりの実力者のようで色んなコンクールで名前をお見掛けします。そして受賞歴も凄いです。最近ですと名古屋ギターコンクールやクラシカルギターコンクールなどで優勝しているようですね。

山口さんはこれまで実際に聴いたことがなかったので事前に注目していた一人でした。

ただ今回の予選の演奏を聴いた限りでは、山口さんが本選に残ったのはかなり奇妙に感じました。

まずとにかく明らかに分かるような目立つミスを随所に連発していました。

最初の導入のところからいきなり弾き損じていたはずです。

顔色も見るからに動揺していて、右手のタッチも弱々しくて音も小さく遠くまで響いていないような感じでした。

普段の彼女がどんな演奏をしているのか分かりませんが、到底実力を発揮できているようには見えませんでした。

なので山口さんは本選にはまず残らないだろうと思っていたのですが、予選結果が発表されたのを見て非常に驚きました。

正直彼女が残るのならどうして渡邊さんが落ちたのか未だに腑に落ちません。

これは万が一にもありえないことだとは思いますが、今回この二人には共通点があります。

実は二人の本選の自由曲がアルカスの椿姫幻想曲とトゥリーナのセビリャーナでもろかぶりしております。

なので結果をまとめるときに二人の評価を取り違えてしまったなんてことはないのでしょうか?

これは本当に勝手な推測ですが、審査員の先生方が山口さんに特別に肩入れするような理由もあるわけないでしょうし、そういうことを疑ってしまうぐらい奇妙な結果でした。


5人目はFlavio Natiさん。

イタリア人の方で最近よく日本に来ているような印象があります。

この方の演奏を初めて聴いたのは多分2年前の第60回東京国際ギターコンクールの本選だったと思います。そこで確か3位になったと思いました。

その時の演奏は殆ど覚えていないのですが、そのすぐ後に第2回スペイン音楽国際コンクールというコンクールに出場したときそこで一緒になったのを覚えています。

控室で席が隣だったせいもあるかもしれません。

彼はそのコンクールのギター部門で優勝しました。ちなみにそのコンクールの自由曲は今回のスペインギター音楽コンクール同様に、スペイン人作曲家の曲を演奏しなければいけないのですがなぜか彼はレゴンディのアリアと変奏を選んでおりまして、本来なら失格のはずなんでしょうけど確か英語の説明にその記載が抜けていたとかで特例で認められていたのを思い出します。

最近もこの前の名古屋ギターコンクールに参加していたらしくそこで優勝していますね。

予選の演奏についてですが、正直予選に残るか残らないかの微妙な感じの演奏に聴こえました。

全体的に大きな破綻はありませんでしたが細かいミスが結構あったのと、音量があまり出ていないような弾き方で弱々しく感じたからです。

外国人補正? なんてものがあるのかわかりませんが、仮に自分がNatiさんのような演奏をしたら予選を落とされていたと思います。


予選の感想は以上のような感じなのですが、他に気になった方で一人名前を上げるなら33番目の深沢みなみさんでしょうか。

この方もギター講師されているようで、アネモネというギターカルテットでも弾いているみたいです。

印象に残っているのが最初の入りのところの力強い音です。

それが非常に魅力的に感じました。

そのままの流れで最後まで行ければ予選通過したかもしれませんが、途中にちょっとしたミスや躓きがあったのが評価に響いたのかもしれません。


あと予選で気になったことは今回自分が聴くことが出来なかった前半の人たちの演奏です。

名前を見ると他の大きなコンクールで優勝していたり、以前本選に残っていたりと結構な実力者が揃っているのですが、彼らの演奏が本選に残った人たちの演奏と比べてどうだったのかとても気になりました。

こういうときやはり父が来てたら全員の演奏の感じや傾向なんかを聴けるので参考になるのですが、これはもう仕方のないことですね^^;


《本選》

それではここからはメインの本選の感想を書いていこうと思います。

まずは本選課題曲の魔笛について。

フェルナンド・ソル作曲のモーツァルトの魔笛の主題による序奏と変奏曲Op.9はもはや有名すぎるので、特別説明することもないくらいギターを弾く人の中では超有名曲ですね。

でも個人的な経験でいうと、この曲は意外とギターを弾かない人でも知っていたりすることが多い印象です。

禁じられた遊びやアルハンブラの思い出ほどではありませんが、クラシック音楽が好きな人に聞いてみると結構知っていると反応が返ってきます。

やはり主題のメロディーが親しみやすくて覚えやすいのと、変奏の展開がお手本のような感じで聴き応えがあるんでしょうかね。

自分も中学生ぐらいのときから弾いていますが、やはりちゃんと弾こうとすると腕に自身のある方でもなかなか難しい侮れない曲だと思います。

そしてクラシックギタリストとしてふさわしいかどうかが分かってしまう、そんな感じの曲でもあると思います。

その証拠に今回のコンクールでもこの課題曲の出来で評価に差が出た印象です。


まずトップバッターの一人目はロシアから参加されたLikhacheva Annaさん。

背が高く、赤いドレスが目立ったブロンドの女性でした。

使っているギターはなんだろう?

かなり指板の高いレイズドフィンガーボードのギターのようでした。

ひょっとしたら桜井マエストロRFかな?

あと支持具で透明なギターリフトを使っていました。

人気なのか最近見かけることが増えているような気がします。

自分も色々な支持具使ったり借りたことありますが、個人的に足台以上にしっくりきたことはないですね。

彼女の演奏で印象に残っているのはギターから出てくるその音についてでしょうか。

やはり普通の日本人の演奏とは随分と傾向が違います。

全体的に異様に音に表情をつけている感じがしました。

駒よりの硬い音とサウンドホールよりの柔らかい音をとにかく弾き分けているように見えました。

個人的にそこまでやるとちょっと頻繁すぎてやり過ぎかなと思いました。

もともとそういう風に指示されている曲ならまだしも、魔笛のような古典の曲でそこまでやるのはどうなのかなと。

コンサートの演奏なら新鮮に感じたかもしれませんが。

あと魔笛の演奏では序奏が終わった後の最初の主題のメロディーをスタッカートで音を伸ばさないで弾いていました。これもあまり印象は良くないです。

最後のコーダもテンポは相当早いのですが、かなり崩して弾いていました。

自由曲の一曲目はロドリーゴのヘネラリーフェのほとりです。

プログラムにはこちらが後者になっていましたが、こちらから弾き始めました。

多分調弦の関係ですかね。

自分は村治佳織さんのアルバムでこの曲を初めて聴いたと思います。

最近結構取り上げられる事が多いみたいですね。

この曲の演奏でも右手は駒よりのところに位置していることが多くて常にスル・ポンティチェロの音が出ているような印象でした。

中間からのトレモロも妙なアクセントが付いていてそんな止まったようになる曲だったかなと思いました。

とりあえずこの曲に関してはスペインらしさみたいなものは感じられませんでした。

続く2曲目の自由曲はアルカス編の椿姫幻想曲でした。

こちらも相変わらず音が硬い印象で、随分と崩した感じの演奏でした。

この曲に入ると演奏に合わせて体がかなり揺れ動いていましたが、出てくる音はどうもそれについてきてはいなかったです。

あと多分テンポが早くなりすぎたのか、後半は指がついてこれていない感じの演奏になってしまったように思います。


二人目は大谷恵理架さん。

まずは使っているギターについて。

以前は確かガオ・ユーロンを使っていたような。

ジュディカエル・ペロワのマスタークラスに参加したときに話していたので。

今回はスプルース系? の白っぽいギターを使っていました。

ブログには書き忘れましたが、確か今年の豊洲のコンサートのときにはこれになっていたような気がします(違っていたらすいません^^;)

なんのギターか分かりませんが、多分音の出方からして伝統的な作りのギターではないと思いました。

今回たまたまステージ上の演奏だけでなく、楽屋が一緒だったので練習しているときの音も聴けたのですが、第一印象としてはとにかく音が大きいなという感じです。

ものすごく音圧がありました。

ただしそれに比例してか音がかなり籠もっている点も気になりました。

低音だけが出すぎていて、高音成分がほとんど聴こえない感じです。

多分ダブルトップやラティス構造の音が嫌いだという人が思い浮かべる典型的な音の感じです。

弾き方や調整が合っていない可能性もありますが、この音が本来のものだとしたら正直自分としては大谷さんの演奏に合ってない気がしました。

演奏についてですがまずは魔笛から。

その前のAnnaさんと比べると全体的に細かいミスはありましたが、やはりそれなりにしっかりとした演奏でした。

ただ気になったところは序奏が終わってからの主題の部分。

ここはもう少し丁寧に弾いてほしかったかなという印象です。

今回大谷さんだけではないのですが、なぜか肝心の主題の部分を雑に弾いてしまう人が多かった気がします。

あとは第一変奏のスケールの部分。ここはちょっと変わったポジションで弾いていたように思えました。

次に自由曲。

大谷さんは今回独立した小品を4曲演奏するという構成で本選に望みました。

1曲目はファリャのドビュッシー讃歌。

ファリャの唯一のギターオリジナル曲で有名ですが、ファリャはこの曲以前からセゴビアをはじめ色んな人からギター曲を作って欲しいといわれていたと聞いたことがあります。

ファリャの曲をそんなに自分は聴いたことはありませんが、ピアノ曲で有名なアンダルシア幻想曲をなどを聴いてみると確かに「おやっ?」と思うようなフレーズがあり、ギター曲に合いそうな作風ですよね。

大谷さんの演奏ですが、丁寧でテンポ感もこの曲独特の雰囲気も感じられて良かったと思います。

2曲目はエドゥアルド・サインス・デ・ラ・マーサの暁の鐘。

トレモロで奏でられる美しい曲です。

こちらも非常に安定していてトレモロが得意らしい大谷さんの実力が発揮できた曲だったと思いました。

3曲目はレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサのペテネーラ。

短いけれど悲しいメロディーが印象的な曲です。

こちらも悪くないと思いました。

4曲目が同じくレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサのサパテアード。

今回の4曲のなかでは昔から聴いていて個人的に馴染みのある曲です。

家にあるCDにシャロン・イスビンが弾いているものがあったのですが、初めて聴いたときこの演奏凄いなと思ったことを思い出します。

とにかく明るく軽快な曲で最後を飾るにふさわしい曲だと思います。

大谷さんの演奏では目立つようなミスはなかったと思いますが、この曲だけはまだちょっと迫力に欠けるかなといった感じでした。

それでも全曲最初から最後まで安定性は抜群の演奏だったと思います。

ただ今回チラシで演奏曲目を見たときから感じたことなのですが、本選の自由曲はなぜこの4曲にしたのか? ということは気になりました。

別に悪いとは思わないのですが、コンサートならともかくコンクールの一発勝負の場だとこじんまりとしすぎているというかパンチが弱い印象です。

自由曲は15分弾けますから複数楽章の曲や組曲ならまだしも、まとまりに欠ける小品4曲だけだと優勝を狙うには分が悪いと思います。

まあ何か狙いがあったのかもしれませんが、やはり今後も期待できる演奏だなと感じました。


三人目は山口莉奈さん。

まず魔笛の演奏ですが目立ったのが序奏の、楽譜上では19フレット指定の高いシの音のハーモニクス、これがなぜかうまく出せていませんでした。

そのハーモニクスは16小節目から順次4回出てくるわけですが、3回連続でつまってしまい、4回目もぎりぎり鳴ったかな? という感じで苦しそうでした。

本選に残ったからにはこういうところは正確に決めてもらいたいなと思うのですが、やはり経験豊富といえども舞台上での緊張感に飲まれてしまっていたのでしょうか?

こうなると爪の音が気になったり和音がうまく出せていないかなというのはもはや些細なことで、とにかく全体的にミスが多かった印象でした。

特に各フレーズでここは決めてほしいなというところでミスが出てしまうので、そこが気になりました。

自由曲の一曲目はこちらもアルカス編の椿姫幻想曲。

一人目のAnnaさんの演奏が終始個性的だったのでそれと比べると全体的には大分落ち着いた演奏だったと思います。

ただこの曲でも所々のミスは減らず、最後の方の盛り上がるところのスラーなども無理やり弾いているような感じでどことなく精彩を欠いた演奏になってしまった気がします。

もう一曲の自由曲トゥリーナのセビリャーナ。

これは前回のブログのところでも書きましたが、入りのところのラスゲアードは個人的に控えめな方が好きです。

山口さんは多くの方同様派手にかき鳴らすタイプかな?

まあこれはあくまでも個人的な趣向ですが。

山口さんが弾いた三曲の中ではこの曲が一番良かったような気がします。

この曲だけはスペインらしい趣が感じられたのでそこはいいかなと。

大きなミスはなかったと思いますが、ただやはりポジション移動のときの雑音などは気になりました。

結局三曲ともどことなく不完全燃焼のような感じで演奏が終わってしまい、今回は多分本来の実力を発揮できなかったんだと思いますが、今後も彼女の演奏を聴ける機会はあるかと思いますので次回以降に期待したいなと思いました。


四人目は田中春彦さん。

まず目についたのがギターの構え方。

田中さんはなんと足台も支持具も使わずに両足で挟んでギターを立てて構えていました。

うーん、記憶にないのですが以前からこうだったかな?

足台も支持具も使わないという人はごくたまにですが見かけますね。

自分も昔興味本位でなんとなく試してみたことがありますが、やはり不安定で落としそうでおっかない……^^;

まあでも何かしらのメリットがあるからするんでしょうね。

響きでもよくなるのかな?

演奏ですがまずは魔笛から。

序奏はテンポ早めの演奏でした。

そしていきなりミスが多い印象でした。

これまでコンクールで田中さんの演奏を何度か聴いている個人的な印象です。予選だと結構落ち着いていて堅実な演奏を聴かせてくれるのですが、なぜか本選になるとその堅実さが消えてしまう感じです。

今回も立ち上がりから苦しい展開になってしまったと思います。

各変奏でもミスが多い印象でした。

あと気になったのが、自分から見て彼の右手がサウンドホールの真上に位置しているのが多かったことです。なので一人目のAnnaさんとは逆で、田中さんはやわらかい音ばかりで弾いていた感じです。

これだとどうも演奏が弱々しく感じられてなりません。

次に自由曲のアルベニスのエボカシオンとエル・プエルト。

以前ブログに書きましたが、今年豊洲でコンサートを行ったホルヘ・カバジェロが両方とも弾いていました(そういえばホルヘ・カバジェロは来年のイーストエンド国際にまた来るみたいですね、チラシが入っていました)

イベリアの曲をコンクールで弾くというのは、講評でも濱田先生が言っていましたがかなりのチャレンジだと思います。

プロの間でもそれほどレパートリーになっているとは思えませんので。

演奏のほうですが、魔笛と比べると落ち着いてきたのか音に力強さが戻ってきた印象でした。

ただやはりどちらもまだ安定感に欠けていて手のうちに入っているとは言い難く、今後どうやってこの難曲をものにするのか期待したいです。

でも個人的にイベリアの曲を弾こうとするなら、少なくともよく弾かれるスペイン組曲Op.47全曲やその他有名曲が一通り弾けるくらいでないと厳しそうな気がするのですがどうなんでしょう?


五人目は横村福音さん。

彼女もまた色々なコンクールで優勝入賞している期待の若手の方です。

このブログでも何度か紹介してきました。

今回もひょっとしたら大谷さんと優勝を争うのかなと本選前から予想していましたが、実際そうなりました。

まずは魔笛について。

すでに風格を感じさせるような、堂々とした力強いストロークで弾き始めました。

序奏、各変奏とも変な癖やミスもなくきれいな音で最後まで安定感も抜群、まさにお手本のような立派な演奏でした。

課題曲に関しては6人の中では一番の出来だったと思います。

そして自由曲はロドリーゴの3つのスペイン風小品からファンダンゴ、パッサカリア、サパテアードの3曲です。

今年はコンクール、コンサートで何度も聴いてきたこの曲ですが、ようやく3曲まとめて聴けることに。

この難曲を3曲きっちりと弾くのは腕に自信のあるプロでも非常に大変だと思います。

はじめのファンダンゴ。

最後の方で若干ミスがありましたが、相変わらずの迫力のある演奏でした。

途中のハイポジションの難所のところなどはいつ聴いてもよく躓きなく弾けるなぁと感心してしまいます。

次にパッサカリア。

集中力が途切れることがなく、前半は特に問題なし。

中間部のラスゲアードはもう少し歯切れよくいけたらもっとよかったと思います。

続く6連符のフレーズも破綻なくクリア。

最後にサパテアード。

この曲に入る前にはかなり間を取っていた印象です。

もう一度気持ちを入れ直したんでしょうかね。

サパテアードは途中でちょっとミスがあったと思いますが、勢いは最後まで落ちなかったと思います。

弾き終わったときにはこの日一番の大きな拍手が送られていました。

横村さんの表情は舞台上では終始クールな印象を受けますが、演奏自体はすごい熱いものが感じられて大変満足のいくものでした。

ただ音楽表現的には今後もまだまだ向上していけると思いますので、今後にますます期待したいなと思いました。


最後六人目はFlavio Natiさん。

Natiさんも支持具に透明なギターリフトを使用しておりました。

見た感じ他の支持具よりも微調整しやすそうな感じですが、どうも持ち運びの点とつけ外しの煩わしさが気になるのですが、その辺は実際にしばらく使ってみないとわからないでしょうね。あと値段的に気軽に試せない……^^; 自分の場合いまの所練習で腰が痛いということもないですし、左足も2、3時間同じ体勢で練習とかしない限りは痛くならないので急を要するということもないので。

でも体から離すので響き的にはよさそうですよね。

さて演奏のほうですが、今までと同じく魔笛からです。

最初のEmの和音ですが、Natiさんはこれをジャラーンと一般的な親指のストロークではなくて普通の和音として処理していました。

わざわざ楽譜通りに弾かない理由があるのでしょうかね?

まあそこはいいのですが、Natiさんはどうもこの魔笛が苦手なのか興味がないのかはわかりませんが、今まであまり弾いてこなかったんじゃないのかなという印象でした。

とにかく全体を通してミスが多い。

しかも本当になんでもないところで連発するのでさすがに「おやっ?」と思いました。

タッチも弱くてあまりギターが鳴っていないような印象でした。

福田進一さんだったでしょうか、どこかで最近海外ではソルはあまり重視されていないみたいなことを書いていて本当かなと思ったこともあるのですが、一人目のAnnaさん含めてこういう演奏を聴いてしまうとたしかにそうかもと思ってしまいます。

正直本選の課題曲が魔笛というのは、始まる前は本選に残るような人たちならみんな余裕で弾けるのでは? と思っていたのですが逆に各奏者の実力が浮き彫りになって大変興味深かったです。

講評でも濱田先生は古典の重要さを繰り返し指摘されていましたが、改めてその点は認識する必要があるなという風に感じました。

自由曲の一曲目はエミリオ・プジョールの3つのスペイン風小品からタンゴです。

スペイン音楽国際コンクールで優勝したときも弾いていて得意にしている曲なんですかね。

Natiさんは自由曲に入ると明らかに課題曲を弾いていたときよりも実力を発揮していたと思います。出てくる音もそれまでと全く違っていました。上で魔笛をあまり弾いてこなかったんじゃないのかという印象もそこからです。

個人的にあまり馴染みのある曲ではありませんが、譜面を眺めてみた印象はなかなか難しそうだなという印象ですね。聴いているだけだと結構軽やかな曲なんですが。

そして自由曲のメインはやはりアントニオ・ホセのソナタでしょう。

今回は3,4楽章を弾きました。

3楽章のPavana tristeは直訳すると悲しみのパヴァーヌといったところでしょうか。

その名の通り2小節目から付点音符で跳ねた感じの落ち着いた旋律が流れています。

そのまま概ね静かな感じですが、途中には力強くなるところもあったりしてずっと一本調子ではありません。1,4楽章に比べると地味かもしれませんが、なかなかいい曲だと思います。

Natiさんの演奏ではスケールの大きい安定した演奏だったと思います。

そして4楽章のFINAL。

ラスゲアードを含んだ16分音符の派手な旋律で始まりますが、ここは若干詰まってしまったようで、繰り返し2回目のところも同じような感じでした。難しいところだと思いますがここを完璧に決めると迫力が出ますよね。

そして個人的に一番魅力的だったのが第1楽章の旋律を再現するところ、特にあの印象的な第2主題(?)のところでしょうか。あそこはすごく良かったです。

なので本当は第1楽章も聴いてみたかったのですが時間の都合で難しいのかな。

とにかく自由曲は最後まで熱のこもった演奏でした。


というわけで全員演奏を聴き終わった時点での自分の順位予想ですが、

第一位:横村福音さん。

第二位:大谷恵理架さん。

第三位:Flavio Natiさん。

第四位:Likhacheva Annaさん。

第五位:山口莉奈さん。

第六位:田中春彦さん。


実際の順位はとっくに発表されていますが一応、

第一位:横村福音さん。

第二位:大谷恵理架さん。

第三位:Likhacheva Annaさん。

第四位:Flavio Natiさん。

第五位:山口莉奈さん。

第六位:田中春彦さん。

のような結果になりました。


大体予想通りでしたが、三位と四位が逆でした。

まずはやはり横村さんと大谷さんの二人がとても良かったと思います。

ただ今回は自由曲でまとまった三曲を高いレベルで披露できた横村さんが優勝に相応しいと思いました。

審査員9人中6人が一位をつけたそうです。

大谷さんの演奏もとても安定していましたが選曲の差が出てしまったのか、やはりこういうハイレベルなコンクールの場ですと難曲に挑戦しないと駄目な気がします。

結果は四位でしたが自分は三位に予想したFlavio Natiさん。

自由曲の出来は上の二人と充分競えると思いましたが、やはり魔笛の出来が響いてしまったんでしょう。おそらく魔笛を無難にまとめられていて、自由曲をホセのソナタ一本で挑戦していれば結果は変わったと思います。

あとのAnnaさん、山口さん、田中さんはなかなか順位を予想するのが難しかったのですが、この中では技術的にはAnnaさんが抜けていたかなということで四位予想(結果は三位でしたが、おそらく魔笛の出来がNatiさんほど酷くなかったからではないでしょうか)、山口さんはセビリャーナには光るところがあったと思うので田中さんよりも上にしました。

田中さんは残念ながら最下位でしたが、実力は間違いなくあると思います。

ただ選曲が挑戦的すぎたかなーと(個人的に悪いことだとは思いません)


《余談》

ところでパンフレットには来年の課題曲が掲載されていました。

一次予選がソルのワルツOp.32-2。

二次予選がタレガのマリア。

本選課題曲がアルベニスのマジョルカ。

どれもお馴染みの曲ですが、自分はマリアとマジョルカは練習したことないのでこれから頑張りたいと思います^^;

スペインギター音楽コンクールは都内で参加しやすいので多分来年も応募すると思います。

でも他のコンクールも受けるとなるとなかなか練習と覚える負担が大変そうです。


今年はもうコンクールは受けませんが、いまのところ12月の東京国際は見に行こうかなと思っています。都合が悪くなければ通し券を購入する予定ですのでコンクール前の「若きギタリストたちによるギターコンサート」も見に行けるはずです。

ちなみに今年は前年度優勝者がいないのでそちらのコンサートはないみたいですね、ちょっと残念。

なので次回はその辺りの感想でブログ更新できるかと思います。


最後に来年のコンクールも色々出てみようかなーと思っていますが、まずは一番近いところで「ギター大好きみんな集まれギターコンペティション」というものに出てみようかなと思っております。

以前オールジャパンギターコンクールというものが同時開催されていてそちらには参加したことがありましたが、こちらがなくなってしまったので今回はコンペティションの方にしてみようかなと。

締め切り近いですが実はまだ応募しておりません^^;

演奏する曲何にしようかちょっと悩んでいるので。

兎にも角にも来年もコンクール挑戦頑張りたいと思います。

ブログの方は相変わらず更新遅いですが、次回以降もよろしくお願いしますm(_ _)m


0コメント

  • 1000 / 1000