第9回イーストエンド国際ギターフェスティバルの感想④

さて、イーストエンド国際ギターフェスティバルの感想を書くのも今回で4回目です。

やっと5月19日の出来事について書けますね^^;

その日は午前・午後にホルヘ・カバジェロのマスタークラスが開かれていたのでそれを一通り見学して、最後に夕方からのコンクールの本選を観戦しました。

なので順番的には今回はマスタークラスの感想なんですが、いい加減メインの本選の感想を書いてしまいたいなー(忘れないうちに^^;)と思ったので今回はそちらを述べていきたいなと思います。

そういえば出たばかりの現代ギターの最新号にこのイーストエンド国際ギターフェスティバルの特集が載っていましたが、コンクールのことは最低限の紹介だけで講評などは載っておりませんでした。参考にしようと思ったのですが残念……。

まあ紙面のスペースの都合があるでしょうから仕方ないですね(´-`).。oO


《本選観戦の感想》

このコンクールの本選は他のコンクールとはちょっと違っていて、聴衆の方たちにも各人の演奏の採点ができるように6つの項目で評価できる紙を配布しております。

具体的には音楽性、解釈、テクニック、音色、オリジナリティ、表現力の6つで各5点合計30点満点で順位を決めていました。

公式サイトには各審査員の付けた点数の一覧表が見れますね。

自分も演奏聴きながらとりあえず採点してみましたが、比べてみると採点基準が全然違うというか自分が付けた点数だけ見るとものすごく辛口評価になっていますね(ごめんなさい^^;)

自分的には問題なく出来ているなと思ったら3を、よく出来ているなと感じたら4,これはすごい称賛したいとおもったら5を付けました。

逆にちょっと問題があるなというときは2を、明らかにこれはまずいと感じるようなら1をつけようかなーと思ったのですが、幸い今回は各項目で1を付けたところはありませんでした。

あと例えば3か4にしようか迷ったときは勝手に3.5とかで判断しました。

個人的に5段階だとちょっと悩むような気がします。

10段階ぐらいだとわかりやすいなーと思うのですがどうでしょう?


それでは一人一人の演奏について述べていきたいと思います。

まずは一番目の吉田松太郎さんからです。

曲はニコロ・パガニーニの大序曲……ではなくて皆さんよくご存知のマウロ・ジュリアーニの大序曲です。

こちらもパンフレットの表記が間違っていたんですね。

自分も最初に見たときパガニーニの曲で大序曲? そんな曲あったかなと思いました。

あるいは一曲なので複数楽章の曲かなと思いひょっとしたらグランドソナタ(Op.39,MS3)の間違いかなと思いましたが、普通におなじみの大序曲でした。

まあ本選前に吉田さんはホルヘ・カバジェロのマスタークラスを大序曲で受講していたのでそうなんだろうなーとは思いましたが。

ところでコンクールとは関係ないことですが、このジュリアーニの大序曲とパガニーニのグランドソナタの第1楽章のAllegro risolutoってところどころのフレーズがすごく似ている気がします。初めてAllegro risolutoをちゃんと聴いたときあれ、これって大序曲じゃない? と思いました。ジュリアーニとパガニーニって同じイタリア出身(当時はナポリとジェノヴァで違うのかな)で交流もあったようなので、どちらが真似をしたのか参考にしたのかはわかりませんがお互い影響受けていたんでしょうかね。

演奏についてですが、全体的に目立つようなミスは少なかったと思いますし難しいフレーズも指はよく動いているようには感じましたが、気になったのは音の出し方が雑というか荒く感じられるところでしょうか。特に和音を弾くときに強く感じました。

実はマスタークラスでもカバジェロ先生に真っ先に指摘されていたところなので気のせいではないと思います。

まあ本番直前に改善しようと思ってもそんなにうまくはいかないと思います。

多分吉田さんも気をつけていたとは思いますけど、習慣になってしまっていると直すのは難しいですよね……。

ただ自分が今回一番気になったのはその点ではなくて、なぜ本選で演奏する曲がジュリアーニの大序曲一曲だけだったのかということです。

このコンクールでは本選は自由曲のみで20分も演奏できます。

大序曲は普通に演奏するとだいたい8分前後ぐらいの曲ですから半分にも届きません。

現代ギターの記事にもこのコンクールでは大曲や複数楽章の曲が演奏できると書いてありましたが、自分も本当にそう思います。

せっかく予選を勝ち抜いて出ている本選なのにもったいないなと。

まあ何か事情があったのかもしれませんけどね。


二番目は川崎薫さん。

曲はフェデリコ・モレノ・トローバのカスティーリャ組曲とアグアドの序奏とロンドOp2-2です。

まずカスティーリャ組曲のファンダンギーリョから弾き始めました。

この曲は個人的に好きな曲で、やはりセゴビアの演奏が一番ですね。

だからというわけではありませんが、このときの川崎さんの演奏だとこの曲はちょっと駄目かなと思いました。

ミスが有ったからというわけではなくて、曲が内包している”趣”みたいなものが伝わってきませんでした。

この曲は技巧がどうこうよりも、音楽的にどう表現するかだと思います。

まあちゃんとした先生に付いていると思うので今どきセゴビアみたいな弾き方はさせないとは思いますが……^^;

それでもスペインの作曲家が作ったスペインの曲なんですから、その香りが感じられるような演奏が好ましいと思います。

その後のアラダとダンツァも悪くはなかったと思うのですが、個人的にちょっと印象には残らない感じだったかもしれません。

序奏とロンドは前日のコンサートでも聴きましたが、こちらはこの本選の演奏もなかなかの出来だったかなと思います。

ただ全体的に去年の本選の演奏の方がパンチがあったと思います。

特にグランソロは今でも思い出せるぐらい迫力がありました(惜しかったのは最後の方で6弦のチューニングが合わなくなってしまったところですが……)


三番目は赤井香琳さん。

曲はロドリーゴの3つのスペイン風小品よりファンダンゴとサパテアード。

それとイリ・イルマルのバーデン・ジャズ組曲です。

前日に続きこの日もまたファンダンゴとサパテアードの演奏を耳にしました。

コンクールではみなさんこの組み合わせでよく取り上げていますね。

時間配分的に丁度いいのかな?

そして相変わらず省かれるパッサカリア……^^;

前回もちょろっと書きましたが、この曲は組曲というわけではないのでしょうけど個人的にはやはり三曲まとめて聴きたいですね。

また横道にそれますが、カバジェロ先生のマスタークラスで先生はファンダンゴの演奏で一番好きなのはセゴビアの演奏だと言っておりました(ちょっと意外でした)

ちなみに自分は家にあったバルエコのCDで初めて聴いたと思うのでやっぱりそれが一番好きですね。

赤井さんの演奏ですが、緊張していたのかファンダンゴは最初の方からつまずいてしまい苦しい演奏になってしまったかなーと。

続くサパテアードもそれに引きづられてかちょっと冴えない感じに聴こえました。

ただバーデン・ジャズ組曲に入ってからは落ち着いてきたのか比較的安定した演奏になっていたと思います。

ひょっとしたらバーデン・ジャズ組曲を先に演奏したほうが全体的にうまくいったかもしれませんね。

ファンダンゴはかなり難しい曲なのでよほど自信がないといきなり一曲目でばーんと決めるのはなかなか大変な気がします。


四番目はXing Xing Yaoさん。

曲はリョベートのソルの主題による変奏曲とウォルトンの5つのバガテルよりⅠ、Ⅲ、Ⅴです。

前日の予選では13歳らしからぬ驚異的な演奏で一位通過しましたが、この日も技術的にはずば抜けて凄かったです。

まずは難曲のソルの主題による変奏曲です。

最初の主題は緊張していたのかちょっとぎこちない感じに聴こえましたが、そこからの各変奏は彼女のヴィルトゥオーソ的な技巧を披露するのにうってつけだったように思います。

ミスらしいミスもほとんどなく、堂々としていました。

続くバガテルもどの楽章もかなり弾き込んでいるようで最後まで安定して聴くことが出来ました。

ネットには去年の台湾国際ギターコンクールでバガテルを全楽章弾いているのが見れると思いますので、気になる方は探してみてください。

ただ疑問に感じるところがなかったわけではありません。

まずはやはり予選の感想のところでも指摘した低音弦を弾くときに出るカッカッカッというかシュッシュッシュッみたいな(うまく表現できませんが^^;)あの爪の擦れる音です。

この日の演奏でも速いフレーズや同音連打が続くようなところだと大きく鳴りすぎていてちょっと耳障りに聴こえました。

弦を弾くときに爪だけを使って弾いているのか、爪の形が悪いのか、それともタッチの問題なのか、はっきりとは分かりませんが多分そのあたりが原因のような気がします。

爪の擦れる音は完全に無くすのは難しいですが、少なくとも目立たないようにすることはできると思います。

今回本選に残ったXing Xingさん、川崎さん、原田くんは偶然にもアグアドのロンドをみんな弾いているわけですが、例えばそのロンドの83小節から出てくるようなラの音の同音連打で川崎さんと原田くんの演奏では爪の擦れる音は目立って聴こえてくることはありませんでした。

彼女のレベル的にそれなりの先生に付いて指導を受けていると思うのでそのあたりのことはすぐに指摘されると思うのですが、改善させないのはどうしてなんでしょう?

あとは音楽性のことでしょうか。

もう単純な技術的には一流のプロとほとんど変わらないと思います。ただ一方で往年の名ギタリストのような魅力あふれる音楽に今後なっていくかといわれると、まだ何かが足りない気がしてなりません(13歳の子にそういうことを求めるのも酷かもしれませんが、それぐらい技術的には抜きん出ているものがあると思います)

でもXing Xing さんも非常に若い方なのでこれからもまだまだ伸びてくるのでしょう。

今後に期待したいなと思いました。


五番目は坂本和奏さん。

曲はテデスコのゴヤの24のカプリチョス第12番仕方がなかった(No Hubo Remedio)とレゴンディのベッリーニの歌劇「カプレーティとモンテッキ」のアリアによる変奏曲です。

今回予選と本選の演奏を両方聴いた方で一番印象が変わったのが坂本さんでした。

予選のメルツの曲がどうもピンとこなかったのであまり関心がもてなかったのですが、本選の演奏は目が覚めるような大変心地の良い音を響かせていまして、2曲ともあまりよく知らない曲でしたがものすごく魅力的に感じました。

技術的にもXing Xing さんや原田くんにも負けないものをお持ちだと思います。

なかでも個人的に一番評価したいなと思うのは”坂本さん自身の音”みたいなものが感じられた点です。

こういう人の演奏はぜひまた聴いてみたいなと強く思いました。

ただ一つ惜しいなと感じたのは、曲の盛り上がるところではもっとダイナミクスのある音が欲しいなと思ったところでしょうか。

例えばレゴンディの変奏曲では最後終曲に向けて速くて技巧的なパッセージがありますが、そういうところはどうだ!といった感じでどーんと派手に披露してくれると言うこと無しでした。


最後の六番目は原田斗生さん。

曲はアグアドの序奏とロンドOp2-2とテデスコの悪魔の奇想曲です。

まずは序奏とロンドですが、このイーストエンドではコンクールとコンサート合わせてなんと四回目の鑑賞になりました。

聴きやすくて人気もありますし、技巧的にも古典音楽的にも色んな点でコンクール向けの曲なので各コンクールの本選で一人は弾くだろうというぐらいお馴染みですね。

原田くんも予選の大序曲と同じぐらい得意にしてるみたいで、コンクールの演奏で何度も聴いております。

そしてこの曲に関して今回の演奏は、今まで聴いてきた原田くんの演奏の中で一番良かったと思います。

以前までですと、原田くんはかなり技巧的かつ大変指が回りますので各フレーズをこれでもかといわんばかりに勢いよく弾いておりました。

ただそれが音楽的かというと個人的には疑問に感じていました。

しかし今回の序奏とロンドの演奏は落ち着いていたのか、今までなら勢いに任せて弾いていたようなところも意識的に抑えてうまくコントロールできていたように思います。

なので大変聴きやすくて成長を感じられました。

そしてもう一曲の方の悪魔の奇想曲。

こちらは去年の本選でも弾いていました。

去年はアルベニスのカタルーニャと悪魔の奇想曲の組み合わせでしたが、最初のカタルーニャがなんとなくうまくいかずそれに引きずられて悪魔の奇想曲もいまいちな感じでした。

先に申し上げると悪魔の奇想曲も全体的には去年の演奏より、今年の演奏の方がよく聴こえました。

ただこちらの曲に入ってからは調子が出てきたのか、ロンドのときにはあったはずの抑えがまたちょっと外れてしまったようですごい勢いで弾き倒していました……^^;

あくまで個人的な意見ですが、いくらパガニーニ讃といってもこの悪魔の奇想曲という曲はそこまで技巧を誇示するような曲ではないと思うのです。

この曲で一番聴けるというか説得力があるのはやはりセゴビアの演奏でしょう。

曲自体がセゴビアのために作られて自身で編曲してますから当たり前なんでこれは置いておきます。

原田くんの演奏は公式の動画で視聴できますので改めて聴いてみましたが、それでふと思い出す演奏がありました。

誰かというとご存知のかたも多いと思いますがマルコ・トプチィというギタリストです。

原田くん以上の超凄腕の彼もこの曲が得意みたいで、ネットにはいくつか演奏があがっていますがそれではありません。

トプチィは2013年の東京国際でこの曲を弾いて優勝していましてその時の演奏です。

現代ギターの講評でとにかく凄いみたいなことが書いてありまして、その後に出た付属のDVDで演奏見ましたがなるほど納得だなと思いました。

トプチィの演奏は一見技巧に走っているように思えますが、きちんと一音一音に気持ちが込められていてセゴビアとはまた違った説得力がありました。

原田くんが今後どのようなギタリストを目指すのかは分かりませんが、ぜひそういった観客を納得させてくれるような演奏をしてもらいたいですね。


本選の演奏が終わり、その時点での個人的な予想は以下のようになりました。

一位:坂本和奏さん。

二位:原田斗生さん。

三位:Xing Xing Yaoさん。

四位:川崎薫さん。

五位:吉田松太郎さん。

六位:赤井香琳さん。

観客が選ぶ聴衆賞には坂本さんの名前を書きました。


一位から三位は悩みました。

技術的にはXing Xingさんと原田くんが飛び抜けていたようにも思えるし、音楽表現的には坂本さんが一番かなと。

まあ三人のなかで誰が一位でもおかしくないと思ったので、今回はいい演奏だったなと思えた順にしてみました。

五位の吉田さんはあくまでも一曲だけで評価した場合です。

得点表には時間配分の項目がありませんからね……^^;

結果は公式サイトの方にとっくの前に掲載されておりますが、以下のとおりですね。

一位:原田斗生さん。

二位:Xing Xing Yaoさん。

三位:坂本和奏さん。

四位:川崎薫さん。

五位:赤井香琳さん。

六位:吉田松太郎さん。

聴衆性がXing Xing Yaoさん。

特別賞が種谷信一さん。

結果については点数も公表されておりますので、概ね納得ですね。


本選が終わったあとはガラコンサートがありました。

アレッサンドロ・ペネッシと高田 泰久さんのデュオ。

アレッサンドロ・ペネッシのソロ。

アレッサンドロ・ペネッシとホルヘ・カバジェロのデュオ。

最後にホルヘ・カバジェロのソロだったかな?

時間が経っていてメモなども取らなかったので間違っているかもしれませんが、色々聴くことが出来て最後まで本当に楽しむことができました。

今回は記念撮影にも写ることが出来ました。

原田くんの隣なので目立ちますね^^;


この2日間は大変充実した経験を得ることが出来ました。

次回の開催はいつ頃になるのかまだ分かりませんが、来年も開催されればぜひ参加したいですね。

それではここまでご覧になってくださったみなさまありがとうございましたm(_ _)m

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