第9回イーストエンド国際ギターフェスティバルの感想③
前回の投稿から一ヶ月以上過ぎていまして、コンクールが開催されてから二ヶ月も経っているので本当に今更かもしれませんが、気にせず感想書いていきたいと思います^^;
今回はコンクールの予選が終わった後に開かれたコンサートについてそれぞれ書いてみたいと思います。
《第8回イーストエンド国際ギターコンクール受賞者コンサート》
去年入賞した横村さん、大谷さん、川崎さん、佐々木さんの四名によるコンサートです。
みなさん実力は確かなもので、曲も上の画像の通り大曲がずらりと並んでいましたので事前から結構楽しみにしておりました。
さてコンサート開始前に主催者の樋浦さんからアナウンスというかお詫びが。
なんでも画像のプログラムは作曲者を載せていないのと演奏順等かなり間違いが多いとか。
なので実際のプログラムは下のようになりました(もしかしたら記憶違いで順番が違ってるかもしれません)
①グランソロ/F.ソル 佐々木みこと
②序奏とロンドOp.2-2/D.アグアド 川崎薫
③ファンタジアOp.19/L.レニャーニ 大谷恵理架
④無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV1012よりプレリュード/J.S.バッハ 横村福音
⑤エチュードOp.6-6/F.ソル 横村福音
⑥無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番ニ短調BWV1004よりシャコンヌ/J.S.バッハ 大谷恵理架
⑦3つのスペイン風小品よりファンダンゴ、サパテアード/J.ロドリーゴ 横村福音
⑧スペイン舞曲第5番アンダルーサ/E.グラナドス 横村福音
一番目のグランソロを弾くのは川崎さんではなくて去年特別賞を受賞した佐々木みことさんでした(ちなみに川崎さんは去年の本選で同じグランソロを弾いてましたね)
佐々木さんが弾いたグランソロは昔はよく弾かれていたらしいセゴビア版?ジムロック版?
のようでした。
現在主に弾かれているのはウジェル版だと思うのですが(自分も家にあった中野二郎版で練習してました)、それと比べると色んなところが違っていたり省略されていますね。
二番目は去年3位だった川崎薫さんの序奏とロンドOp.2-2です。
川崎さんは本選で序奏とロンドを弾くので事前披露ということになるのでしょうか。
予選のXing Xing Yaoさんの演奏に負けない良い演奏だったと思います。
三番目は去年ダブル優勝した大谷恵理架さん。
曲は去年の本選でも聴いたレニャーニのファンタジアです。
特別技巧的な曲ではないのですが、全体的に明るい感じの曲で題名の通り自由な発想で次々に色んなフレーズが出てくるような印象の曲です。
大谷さんの演奏も安定していて落ち着いて聴けました。
四番目が同じく去年ダブル優勝だった横村福音さん。
曲はこの前のバッハコンクールの本選でも聴いたBWV1012のプレリュードです。
個人的にBWV1012は原曲がニ長調の曲だからなのか無伴奏チェロ組曲のなかでは一番ギターで弾くのに合ってる気がします。
逆に普通のチェロで弾くのは本来五弦用のチェロを想定しているからか演奏するのはかなり難しいとかなんとか。
さて横村さんの演奏ですが、この日は演奏よりも調弦に苦しんでいた印象です。
弾き始めるまえにかなり時間をとって音を合わせていましたがなんだかしっくりいかないみたいでした。
多分演奏会直前に新しい弦に張り替えたんでしょうかね?
実際のところはわかりませんが、やっぱり弦も明らかに音程が合わない不良弦に当たることもあるので自分は最低でも本番の3日前には張り替えるようにしています。
そんなわけでちょっと演奏に集中できなかったためか浮足だってしまっているような感じで、曲の途中でもフレーズが迷子になってしまったり(なぜかバッハの曲だとしょっちゅうありますね)と今回のプレリュードの出来は今ひとつみたいでした。
でもこういうのを糧に成長していって欲しいなと思います。
横村さんはそのまま続けてソルのエチュードOp.6-6(セゴビア編の12番)を弾きました。
この曲は去年のバッハコンクールの二次予選の課題曲でした。
自分も結構練習しましたが、これをアレグロで軽快に弾くのはかなり難しいと思います。
ちなみに去年うちの父が聴いた中では予選で一番横村さんが上手かったらしいです。
自分はその時の演奏聴けなかったので今回やっと聴けました。
あとプログラムに掲載されていたOp.29-17(セゴビア編20番)は演奏しませんでした。
次は入れ替わりで再び大谷さんの登場。
大谷さんは今回のメインでこのバッハのシャコンヌを持ってきたみたいですね。
彼女の実力からしてこの曲を演奏するのは全然問題ないんですが、やはりクラシック音楽のなかでも随一のこの名曲は弾く人の音楽性というか感性みたいなものがまざまざとさらけ出されてしまうような気がします。
なのでこの演奏の正直な感想としては”なんだか若いなぁ”という印象しかもてませんでした。
数多の一流の演奏家が弾く時に感じられる”深み”みたいなものはまだ感じられません。
今後の課題になるような気がしました。
でも大谷さんの場合、この先プロを目指すにあたって色々経験していくうちにそういうのはきっと自然に身につくのではないかと思います。
ちなみにこのシャコンヌの編曲は誰のだったかな?(よく弾かれるようなのと結構違っていました)
以前どこかで聴いたことがあるような……思い出せない^^;
思い出したらあとで追記しておきます。
(追記:ひょっとしたらジョン・ウィリアムス版かなぁ? 違うかもしれませんが、なんとなくそれに近かったような気はします)
その後はまたまた入れ替わりで横村さんの演奏になりました。
まずはこちらも先日のバッハコンクールの本選で聴いたファンダンゴとサパテアードです。
本選のときのような”キレ”は今回感じられませんでしたが、この難曲の二曲をミス少なく安定して弾けることで実力の高さを改めて確認することが出来ました。
惜しいと思ったのは本来二曲の間にあるパッサカリアも聴きたかったなということです。
コンクールと違って時間の制限がない(わけではないですが^^; 今回のコンサートも時間ぎりぎりだったそうで)ので三曲聴けるならまとめて聴きたいのですが……。
横村さんの実力なら多分パッサカリアも弾けると思うのですがまだレパートリーにはなってないのかな?
そして最後を飾るのはグラナドスのスペイン舞曲第5番のアンダルーサ。
この曲は本人の希望で順番変更で最後になったとか、得意にしている曲なんでしょうかね。
若干速めのテンポで弾き始めました。
個人的にはもうちょっとゆっくり目なのが好みなんですが(でもピアノの演奏だと結構速く弾くので本来はこんな感じなのかなぁ?)、いい感じで弾き終えたかなと思いました。
今回の受賞者コンサートは2000円でこれだけいろいろ聴けて楽しめたので個人的には大満足でした。
《ホルヘ・カバジェロのコンサート》
この日最後のプログラムで、今回のイーストエンド国際ギターフェスティバルの企画の中でも開催前から色々なところで告知され一際注目を集めていたホルヘ・カバジェロのコンサートです。
恥ずかしながら彼のことはほとんど知らなかったので経歴を事前に拝見したところかなり凄いギタリストというのを知りました。
でもネットの動画ではバッハのBWV849やヴィラ・ロボスのエチュードを弾いているのを前に視聴したことがあったのでああこの人だったのかと思い出しました。
日本には公演としてくるのは初めてみたいですが、以前東京国際ギターコンクールに出たことがあるみたいですね。
調べてみたことろ2001年のアレクサンドラ・レンガチが優勝したときで、カバジェロ氏は2位で、3位がトマシュ・ザビエルハでした。
今回のコンサートで特に話題になったのが彼の披露するプログラムです。
アルベニスのイベリアからエボカシオン、エルプエルト、アルバイシン、マラガ。
バッハの半音階的幻想曲とフーガBWV903。
そしてムソルグスキーの展覧会の絵。
何も知らずに名前だけ見るとギターのコンサートの演目には見えませんねぇ^^;
この中でも特に最後の展覧会の絵は山下和仁さんが弾いて当時一大センセーションを起こしたらしく、今でも一部の方たちの語り草になっているようです。
演奏の感想ですが、もう色んな方がブログ等で書かれている通りで派手さみたいなものはありませんが素晴らしい技術をお持ちで、聴いていて難所と思われるようなところも平然と弾きこなしていくそんな感じでしょうか。
ネットの動画で今回演奏した曲がほぼそのまま聴けますが、当日の演奏も同じように非常に安定していたと思います。
とにかくホルヘ・カバジェロは凄かった!
……のですが、それだけだとよくある感想で終わってしまうなーと思ったのでここからはそれ以外に感じたことも述べていこうかなと思います。
まず不満に感じた点。
これは演奏された曲目についてです。
上記のメインプログラムの6曲ですが、これらは原曲は全てピアノのための曲です(BWV903は正確にはピアノではなくクラヴィーアですが、とりあえず今回は置いておきます)
編曲作品が駄目とか聴きたくないというわけではありません。
ただギターのコンサートなんですから一曲ぐらいはギターオリジナルの作品をプログラムに入れてもらいたかったなということです。
ピアノの曲やヴァイオリンの曲それ以外にも色々あるかと思いますが、それらはギターで演奏しなくてもそれぞれの楽器や編成で演奏されます。けれどもほとんどのギターの曲はギターで弾かないとほぼ取り上げられる機会はないかと思います(探せばちょこちょこありますけど、こういうものをギタリスト並にメインにしている人はいない?)
次に各作品の編曲等についてです。
ギターとは異なる楽器のために作られた曲をギターで弾くということは、ギターで弾いても魅力的効果的に聴こえるのか? ということが重要だと思っています。
例えばアルベニスのアストリアスやバッハのシャコンヌなどはギターで弾くと原曲以上に魅力的に聴こえるのは周知のことだと思います。
だからこそ多くのギタリストたちが弾いて演奏会などで大事なレパートリーになってるんだと思います。
ではカバジェロ氏が今回演奏した曲はどうなのか?
まずはアルベニスのイベリア。
イベリアからは上記の4曲を編曲しているんでしょうか?
アルベニスの曲をまとめているCDではこの4曲だけみたいですが。
イベリアは全部で12曲ありますが、おそらくギター独奏でもなんとか弾けそうな4曲を選んだんでしょうかね。
原曲の調性は変イ短調やら変ニ長調とかフラット系ばかりでギターにはかなり不向きなんで、さすがに変調してるのかな。
それでも四曲とも原曲の雰囲気は崩れることなく伝わってくる感じです。
これは編曲がいいのもあると思いますが、多分もともとアルベニスの曲がギターに相性がいいというもあるんでしょう。
ただこれが他のアルベニスの有名曲のように多くのギタリストのレパートリーになって広く親しまれるかなーと思うと難易度のことを抜きにしてもちょっと微妙な気がしました。
(追記:現代ギターの最新号の記事を読むとアルベニスの曲については楽譜を出版するらしいですね)
続けてバッハの半音階的幻想曲とフーガBWV903について。
原曲がニ短調なのでギターでも相性のいい調ですね。
前半の幻想曲の方は即興的なパッセージが中心で、対位法的にそれほど複雑ではないと思います。オクターブの上下が問題になるくらいで、こっちはギター独奏でもなんとか対応できるのでしょうか。
ただ流れるようなフレーズを鍵盤楽器のように違和感なく聴かせるというのは氏ほどの実力があってもやはり難しそうです。
そして後半のフーガ。
これはさすがに厳しいというより無理があるなと感じました。
とりあえず一応聴けるレベルにまとめているとは思いますが、詳らかに見ていくとそれぞれのフレーズがかなり省略されている+旋律のオクターブの移動も頻繁なので本来各声部が独立して聴こえてくるはずなのにそうではなくなっています。
こうなってくるとフーガというよりもむしろフゲッタのようになってしまっているので、この点はちょっと残念かなーと。
ただギターの限界を知るという点ではこういう試みも必要なのかなとも思いました。
そして最後にムソルグスキーの展覧会の絵です。
カバジェロさんはどうも山下版で弾いているみたいなんですが、なにか理由があるんでしょうかね。
ちなみに山下和仁さんは聞いたところによると原曲のピアノ版ではなくてラヴェルの(?)管弦楽版から編曲したそうなんですがそれも何か理由があるんでしょうか。
勉強不足ですいません^^;
この曲は色んな編曲がありますが、自分としてはやはり原曲のピアノ版が一番シンプルで聴きやすくて好きです。
クラシックギター向けに編曲するならピアノ版を基にしたほうが良いように思うのですがそうしないのはなぜなんでしょう?
まあそれは置いておくとして本題のカバジェロさんの演奏ですが、山下さんのと比べると大分落ち着いた感じのある端正な演奏でした。
この曲の山下さんの演奏は確かにすごいなーと思う半面、色々行き過ぎていて素っ頓狂に感じるところもあって音楽的には正直好きではありません。
そういう意味ではカバジェロさんのほうが全体的に聴きやすいかなーと思いました。
兎にも角にも演奏会的には大盛況だったかなと思います。
終わった後の拍手はずっと鳴り止まなかったので、カバジェロさんもとても嬉しそうでした。
個人的にもギターの音楽とは何だろうと考え直すいい機会にはなったかなと思うので、そういう意味では鑑賞してよかったと思います(実はこのコンサートは色々思うところがあって直前まで見ようか見まいか迷っておりました……)
ちょうど明日イーストエンド国際ギターフェスティバルの記事が載っているであろう現代ギターが発売になりますので、もしかしたら一連の感想にも何かしら追記していくかもしれません。
あとマスタークラスと本選の感想もせっかくなので現代ギターの記事見てから書こうかな?
それではまた次回以降もよろしくお願い致します。
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